津村記久子さん著書の「とにかくうちに帰ります」を読みました。
この本の感想・レビューをお伝えします。
タイトルを見ただけで、どんな内容かと気になりますね。
タイトル作の「とにかくうちに帰ります」は、大雨で定時より早く帰宅しなければならなくなった会社員たちと、塾帰りの小学生の物語です。
小説ですが、ドキュメンタリーを読んでいる気分になりました。
ドラマにしたら、おもしろいではないでしょうか。
タイトル作以外にも短編小説がいくつか入っており、全てが会社の出来事を描いたお仕事小説です。

悪天候の時って、出社できないよりも帰宅できない方が恐ろしい。
「とにかくうちに帰ります」感想・レビュー

「とにかくうちに帰ります」の感想・レビューは、
- お仕事小説だが、ドキュメンタリー小説である
- 自分の体験をまざまざと思い出す
- 登場人物の描写がリアルすぎ
では、1つずつ説明していきますね。
お仕事小説だが、ドキュメンタリー小説である
「とにかくうちに帰ります」は、帰宅命令が出た会社員たちが、自宅方面へ向かう電車に乗るまでを描いた小説です。
塾帰りの小学生まで登場します。
家まででなく、自宅方面へ向かう電車に乗るまでです。
会社員が登場するのでお仕事小説と言えますが、大雨の中をひたすら家路に向かうドキュメンタリー小説です。
「うちに帰りたい。切ないぐらいに。恋をするように、うちに帰りたい。」
「とにかくうちに帰ります」より
そうですよね。
台風や大雨、大雪などで会社から帰宅命令が出れば、とにかく早く家に帰りたいんです。
駅では「運休になる可能性があります。」みたいなアナウンスが鳴りまくっているし、いつもより電車に乗る人が多いし、不安感は増してきます。
家族に「今から帰るね」とメールをしたら、「気をつけてね」と即返事が返ってくると、ますます緊張感がアップします。
あの独特の緊張感や気だるさを見事に描いたドキュメンタリーのような小説です。
誰もが一度は経験しているからこそ、共感できるのでしょう。

帰宅命令の出た会社員が、家路に向かう電車に乗るまでを描いたドキュメンタリー小説です。
私自身も同じような経験があります。
ついつい自分の経験を思い出しつつ読んでしまうのです。
自分の体験をまざまざと思い出す
どうしても自分の経験と重ねあわせながら読んでしまいます。
帰宅命令が出た後の結果は、おおよそ次のようになりますね。
- 天気予報通りで、帰宅してから雨がひどくなってきた。
- 天気予報が外れて大雨ではなかった。仕事がたまっているので明日は大変
- 退社が遅くなって電車が止まってしまった。
幸い私は①②しか経験していません。
今後も①②だけで終わらせたいです。
この小説は、あいにく③になってしまった人たちの物語です。

どうしても自分の経験を思い出しながら読んでしまいます。
「とにかくうちに帰ります」が、ドキュメンタリーのように思えるのは、登場人物の描写がリアルすぎるからでしょう。
登場人物の描写がリアルすぎ
パンツの中まで湿っている。いったいどこから雨が入り込んで来たのか。レインコートの前のボタンを全部留めているだけあって、さすがにシャツやスーツは無事なようで、蒸し暑くさえあったが、寒気が下半身から這い上がってくる。
「とにかくうちに帰ります」より
自分がその場にいるかのように詳細に描かれているのです。
とてもリアルな表現が数多く書かれています。
会社を出てから電車に乗るまでのたった数時間の小説です。
なのに、臨場感たっぷりに味わえるのは、登場人物ひとりひとりの描写がリアルだからでしょう。
自分も一緒に、大雨の中を歩いているような気持ちになってしまいます。

登場人物の描写がリアル過ぎて、自分も一緒に歩いているような感覚になります。
この本は、タイトル作「とにかくうちに帰ります」以外にも、
- 隙のない仕事をする同僚の横に置かれたノートが気になる話
- 上司が同僚の親戚を気にする話
- 職場のおじさんに万年筆を返してもらえない話
- インフルエンザにかかる人が社内で多かった話
- アルゼンチンのフィギュアスケート選手の成績を同僚とチェックする話
などの微妙なラインナップです。
微妙ですが、目の付け所にセンスのよさを感じるラインナップ!
「津村さんすごい!」と叫ばずにはいられませんでした。
そして、登場人物の描写のリアルさに「ああ、こんな人会社にいるよね」と誰かを想像することは間違いありません。

会社で仕事をする人は、みんなエライ!
【津村記久子さん著書レビュー記事】
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