津村記久子さん著書の「この世にたやすい仕事はない」を読みました。
この本の感想・レビューをお伝えします。
NHKでドラマ化された原作で、文庫本で発売されています。
津村記久子さんは、2024年本屋大賞2位の「水車小屋のネネ」を始め、「うそコンコルジュ」「サキの忘れ物」などの作品があります。
エッセイストとしても活躍中です。
この世の中は、いろんな仕事があるのですね。
「この世にたやすい仕事はない」感想・レビュー
「この世にたやすい仕事はない」の感想・レビューは、
- エッセイのような小説
- イメージと少し違うお仕事小説
- 主人公と一緒に仕事の目的を考える小説
では、1つずつ説明していきますね。
エッセイのような小説
「この世にたやすい仕事はない」の著者の津村記久子さんは、エッセイストとしても活躍中です。
そのせいか、この本もエッセイのように感じました。
おそらく事実ではなく、全てフィクションです。
しかし、淡々と日々を過ごし、仕事をこなす主人公の姿が、まるで実況中継のように描かれています。
主人公の名前は書かれておらず、「私」で統一されています。
「私」とは、もしかして津村さんご自身なのでは、と思えてきました。
津村さんの経験談と勘違いをしてしまうお仕事小説です。
「この世にたやすい仕事はない」は、お仕事小説ですが、少し変わっています。
イメージと少し違うお仕事小説
お仕事小説と聞けば、こんなイメージがありませんか。
- 主人公が切磋琢磨して、社内でステップアップに成功する
- 主人公が仕事・家族・人生に悩む
- ライバルの同僚が登場する
- イケメン、または美人の同僚も登場する
- あこがれの先輩が主人公にアドバイスをする
- ムカつく上司がいる
などなど、主人公が仕事に真剣に向き合うストーリーが思い浮かびます。
主人公を取り巻く人たちも個性ゆたかな面々、みたいな。
しかし、この小説は少し違います。
- 主人公は失業保険が切れるので、仕方なく仕事を始める
- 淡々と生活をしつつ仕事をこなす
- 悩みは特に描かれていない
- 社内で高評価なのに転職をする
- 登場人物は地味で優しい人ばかりで、インパクトが薄い
主人公を始め、際立った個性がない地味で優しい人ばかりが登場します。
自分の会社生活を当てはまると、これに近いものがあります。
ものすごく仕事をがんばるでもなく、(それなりにはがんばってきたつもり)個性豊かな同僚や上司もいませんでした。
ああ、それは失礼か・・・。
おもしろい人や、あの人ああいう感じ、ちょっと素敵だなと思う人はいたのかも。
まあまあ仕事をがんばり、まあまあ優しくて穏やかな人たちと一緒に仕事をしてきたような気がします。
仕事に燃えるでもなく、職場の人は、ちょっと腹が立つ人がいるけど、ほとんどは優しくていい人たち・・・このような環境で仕事をしている方が多いのではないでしょうか。
会社の毎日って、それほど刺激的ではありませんよね。淡々と仕事をこなして毎日が過ぎていくものです。
「この世にたやすい仕事はない」の同僚たちは、決して主人公に嫌な思いをさせません。
地味で優しい人ばかり。
上司は淡々と指示を出し、同僚は一緒にランチをしたり、世間話をしたり。
いたって優しい人たちです。
そして主人公は、仕事にのめり込むこともなく、手抜きもせずに仕事に取り組みます。
つまり、「仕事にのめり込まず、手抜きもしない主人公のお仕事小説」なのです。
主人公と一緒に仕事の目的を考える小説
主人公は、職場で仕事の指示を受けますが、その仕事の目的は知らされません。
ちょっと変わった仕事なのに、です。
営業や販売、事務などの仕事は、わざわざ説明されなくても仕事の目的はわかります。
営業なら販売促進、販売ならお店の商品を売る、事務は裏方で営業マンや販売員を助ける、といったところでしょうか。
ちょっと変わった仕事をやらなければならないのに、仕事の目的がわからず、主人公はもやもやした気持ちになってしまいます。
読者の私達も、なぜその仕事をするのかわかりません。
主人公と読者が一緒に、モヤモヤした気持ちになってしまうのです。
その後、一軒一軒訪ねつつ歩き回ってみて、盛永さんのポスターが単体、もしくは二枚組で貼られている家はあるけれども、『さびしくない』が一枚、または二枚だけという家はない、ということに気が付いた。
「この世にたやすい仕事はない」より
主人公も読者も仕事の目的がわからないのです。
わからないままで、ストーリーが進みます。
読み進めると、主人公と一緒に、私達も仕事の目的がわかるのです。
主人公と読者が一緒に、仕事の目的がわかる小説です。
お仕事小説、お仕事ドラマは数多くあります。
キラキラした人が登場し、主人公が切磋琢磨して成長していく、みたいなストーリーが思い浮かびます。
「この世にたやすい仕事はない」は、そうではありません。
地味な主人公が地味で優しい人たちと仕事をこなす、エッセイ風のお仕事小説です。
肩の力を抜いて、だらだらっと読める1冊です。
ほどほどのがんばりで、仕事をする人生って悪くないですよね。
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【津村記久子さん著書レビュー記事】
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