ライターとして活躍されているヒオカさん著書の「死ねない理由」を読みました。
前作「死にそうだけど生きてます」という、衝撃的なタイトル本の続編です。
貧困状態から脱出(?)後の日常をつづったエッセイやブログのような1冊です。
あいかわらず、とても聡明な方です!
「死ねない理由」でわかった子供の貧困による影響
前作「死にそうだけど生きてます」は、子供時代から大学卒業をして社会人として働き始める頃までのヒオカさんのことが書かれています。
とても大変な思いをされているのですが、見事に貧困状態から脱出(?)されました。
しかし、脱出したから「めでたしめでたし」というわけにはいかないことが、「死ねない理由」を読んで理解できました。
どんな人でも、子供時代は、非常にたくさんのことを経験して大人になります。
その大切な子供時代の経験が少ないことで、大人になってからも苦労が続いてしまうのです。
「子供の体験格差」問題が言われるようになっています。
子供の頃に旅行・習い事・スポーツなどの体験が少ない子供とそうでない子供では、想像力や選択の幅に大きな違いが出るというものです。
想像力や選択の幅の小ささは、大人になってからも続きます。
一生続く負の連鎖となるのです。
音楽好きで、子供の頃にピアノを習っていました。子どもの習い事にお金を払える家の子供だからできたこと。とっても幸せなことです。
文章を読んでいると、ヒオカさんは、とても頭がよい方であることがわかります。
聡明さで、想像力がカバーできているのかもしれません。
しかし、大学を卒業し、社会人として働くようになってからも、体調不良に悩まされているようです。
持って生まれた体質もあるのでしょうが、子供の頃の食事が影響しているのかもしれません。
子供の貧困は、大人になって働くようになったら解決できる問題ではありません。
このことが、よく理解できました。
当事者は貧困に気づかない
(世間で言われる)貧困状態の人が、「自分は貧困だ」とは気づきにくいものです。
例えば「お金持ちの家で育ったけど、大人になって就職した会社が倒産して、貧困状態になった」人は、「今の自分は貧困だ」と気がつくでしょう。
その理由は「お金持ちの家で育った」過去があるからです。
過去の自分と今の自分を比べることで「今の自分は貧困だ」と理解できます。
しかし、「小さい頃からずっと貧困で、大人になり働いている会社の給料が安すぎる」という人は、「自分はずっと貧困だ」と気がつくでしょうか。
「やっと就職ができて、自分で生活費を稼げるようになった」と思い、安すぎる会社で働き続けるのではないでしょうか。
周りの人と比べればわかる、と言う人もいらっしゃるかもしれません。
でも、自分の周りにいる人は、似た状態の人が多いものです。
- 学校では、家庭環境が似た者どうしで友人を作る
話があわない人は、同じクラスでも友人になりにくい - 中学卒業以降の進路は親の収入で決まると言われている
勉強に時間とお金をどれくらい費やせるかで進路が決まる - 進学先で卒業後の進路が決まる
当然のことでしょう・・・
小さい頃からずっと貧困の人は、同じような家庭環境の友達を作り、大学や専門学校へ進学することは難しい人が多いでしょう。
もちろん進学をしていないから、将来の生活が必ずしも大変とは決まっていません。
しかし、選択できる進路の数は少なくなるでしょうし、収入は進学した人よりも少ない企業がほとんどです。
ヒオカさんは大学進学を果たせたのですが、塾へも行かず、お金がかからない公立1校受験で合格したそうです。
こんな人は、なかなかいません。
て言うか、すごすぎ!
貧困状態の人でも、同じような人ばかりの環境で生活していれば、自分の状態を自覚できません。
高校は進学校、その後は公立大学へ進学したヒオカさんは、同級生と自分の家庭環境の違いに気がついたからこそ、ご自身の家庭環境を客観的に理解することができました。
比較対象ができたからでしょう。
客観的に貧困状態でも、比較対象がなければ気づきにくいのではないでしょうか。
想像力にも格差が生じる現実
前作「死にそうだけど生きてます」でヒオカさんは、次のように書いています。
ほんの少しでいい。たった五ミリでいい。他者への想像力を及ぼす距離をみんなが伸ばしてみる。その総和が社会を少し優しくするのではないか。
「死にそうだけど生きてます」より
心にささる文章なのですが、今作「死ねない理由」では、次のように書いています。
想像力というのも、努力次第でどうとでもなるものではなく、本人がどうしようもない部分も大きいのでないかと思ったりした。想像力が足りない!と非難する側もまた、想像力が足りないのかもしれない。
「死ねない理由」より
想像力がいちばん身につく子供時代の家庭環境は、ここにも影響があるように感じました。
日本で生活している私達が、貧困国とされる国の人の生活を想像することは、かなり難しいです。
TVやインターネットで情報を得て、想像することが精一杯です。
「おそらくこんな感じ」と思い浮かべるのが精一杯。
これ、日本の中でも全く同じことが言えるのではないでしょうか。
同じクラスで、同じ授業を受けているクラスメート同士がいたとします。
夏休みの旅行先はどこがいいかと考えている子と、今日の夜ご飯が食べられるだろうかと考えている子が、お互いの環境を想像することは、かなり難しそうです。
お互いの話をよく聞けば、想像できることはあるのでしょうが、100%本人の経験通りに想像することは、おそらくできません。
同級生どうしでも、お互いの環境があまりにも違えば、理解しにくいかもしれません。
でも、精一杯の想像力で、お互いの環境を想像することは、格差解消の小さくて大きな1歩であることに、間違いないはずです。
まとめ
「死ねない理由」を読んで、子供の頃の貧困体験は、大人になったから解消されるものではないことが理解できました。
子供の頃にいじめられた、大人に怒られることが多かった・・・などの理由で、子供時代にいい思い出がない、と感じる大人は多いかもしれません。
しかし、貧困だったために、いい思い出がない、とは明らかに違います。
子供の貧困は、大人になってからも大きな影響があるのです。
ご自分の体験を通してエッセイを書かれているヒオカさんの文章は、すごいなあ・・・と尊敬するばかりです。
「死ねない理由」を読むことは、深刻な問題を理解する1歩になるかもしれません。
知ることは、問題解決の始めの1歩です!
【おまけ】
ヒオカさん第1作「死にそうだけど生きてます」も載せています。
「東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか」という本についても載せています。1人1人の女性に取材した記事をまとめた本です。
文字のみなので、画面が白黒の端末で読むのがおすすめ