2024年上半期芥川賞(第171回)受賞作「バリ三行」を読みました。
この本の感想・レビューをお伝えします。
芥川賞受賞作品を読んだのは、生まれて初めてです。
「難しいのでは・・・」と不安がありましたが、読みやすい物語でした。
舞台は兵庫県の六甲山です。
六甲山と聞くと、阪神タイガースの「六甲おろし」が思い浮かびます。
ググってわかったのですが、六甲山は、遭難者や行方不明者が出る山なのですね。
覚悟をして登らないといけない山のようです。
バリ島の山登りに行く話かと思いました・・・。
「バリ三行」感想・レビュー
「バリ三行」の感想・レビューは、
- 「バリ三行」の意味がわかる
- 登山の知識がなくても読める
- 「仕事とは」「人生とは」を考えさせられる
では、1つずつ説明していきますね。
「バリ三行」の意味がわかる
「バリ三行」とは、どんな意味なのでしょう。
「バリ」とはバリ島のことではありません。
「バリエーションルート」のことです。
バリエーションルートとは、登山において一般ルートとは異なり、より登攀が困難なルートのことをいう。
「YamaReco公式HP」より一部抜粋
つまり「バリ三行」とは、「バリエーションルートで山を行く」ことです。
バリエーションルートという言葉を始めて知りました。
「バリ山行」とは、「バリエーションルートで山を行く」ことです。
ガイドブックや登山図にはこの一般登山道が表示されている。これに対して、バリエーションルートとは、一般登山道ではない登山道をルートファインディングしながら歩くことである。
「YamaReco公式HP」より一部抜粋
ガイドブックや登山図に載っていないのですから、当然危険を伴います。
文中にも、たびたび「あかんよ」「危険行為やで」などの言葉が登場します。
舞台は兵庫県の六甲山です。
六甲山は、家族でハイキングに行くような穏やかな山だと勝手に想像していたのですが、毎年遭難者や行方不明者がいる山だそうです。
登る人がとても多いメジャーな山ですが、リスクもあるのですね。
いくつか調べたのですが、文中の六甲山周りの地名や駅名は、実在する場所のようです。
この辺りの土地勘がある方は、場所を思い浮かべながら読む楽しみもありそうです。
少し調べましたが、バリエーションルート登山をする方が多くて驚きました。
六甲山頂は900メートルほどの高さだそうですが、もっと高い山をバリエーションルートで登っている方も、たくさんいらっしゃいます。
なんだか知らない世界を知ったような気持ちになりました。
登山の知識がなくても読める
「バリ三行」は登山をする物語なので、登山用語や登山道具がたくさん登場します。
これらの言葉が、山登りが趣味でない人(私を含めて)は、わかりにくいかもしれません。
しかし描写が、とても細かく描かれていて、場面を想像することができました。
なんとなく理解できれば、読み進めることができます。
物語の中心は、やはり六甲バリ登山の場面です。
本格的な登山をしたことがなく、ピクニックしか経験がない人でも、想像しながら読み進められます。
主人公が、社内レクリエーションで始めた登山に、どんどんのめり込んでいく様子が、とても丁寧に描かれています。
人が何かにのめり込んでいく途中は、登山でなくても、どんなことでも似ているのかもしれません。
しかし、「バリ山行」の趣旨は、登山ではないような気がします。
「仕事とは」「人生とは」を考えさせられる
「バリ山行」は、同じ会社に勤める2人の男性社員を通して、「仕事とは」「人生とは」を考えさせられる物語。
女性が主人公のお仕事ストーリーは、結婚・出産・子供が中心になることが多いです。
これは、男性のお仕事ストーリーなので、出世・家族・人生観が話の中心です。
女性の話よりも、ずっしりと重みのある感じ。
男性のお仕事ストーリーは、出世・家族・人生観が話の中心。女性の話よりも、ずっしりと重みがあります。
登場する2人の男性社員は、どちらも「見たことある、こういう人。」と感じました。
どこの会社にもいそうな人たちです。
2人が登山を通して、距離を縮めていきます。
「山は男のロマン」なのでしょうか・・・。
人が足を踏み入れないバリエーションルート、どこに行き着くかわからない人生、両者はよく似ているのかもしれません。
会社という集団の中で仕事をしていると、よくも悪くも、会社の方針や人間関係に悩まされます。
身も心も、どっぷりと会社に浸ってしまうのか、もしくは、自分を見失わない程度に、心の距離を保ちながら会社に居続けるのか。
どちらが正しいとは言えませんが、会社とは、自分とは、どう向き合って生きていくのかという大きな問題にぶつかる話でもあります。
読み終わった後で、うーんと考え込んでしまいました。
2人が努めている会社で、大きな出来事が起こります。
この2人がどうなっていくのか、もう少し後まで描いてほしかったです。
会社とは、人生とは・・・いろいろ考えさせられました。
【おまけ】
同じく2024年上半期直木賞(第171回)受賞作「ツミデミック」も載せています。
作風は違いますが、「東京ハイダウェイ」は、東京で隠れ場所を見つけて自分を取り戻す人たちの小説です。
文字のみなので、画面が白黒の端末で読むのがおすすめ