共同通信社の記者が、ある行旅死亡人の女性を取材したWeb記事を、1冊の本にしました。
タイトルは「ある行旅死亡人の物語」。
エッセイではなくドキュメンタリー本で、全て実話です。
この本の感想・レビューをお伝えします。
記者の仕事って、とっても大変なのですね。
「ある行旅死亡人の物語」感想・レビュー
「ある行旅死亡人の物語」の感想・レビューは、
- 記者の取材は、途方もない作業で大変
- 点を線に結びつける作業を繰り返す
- 電子書籍より紙の本がおすすめ
- 行旅死亡人の身元がわかることは、ほとんどない
では、1つずつ説明していきますね。
記者の取材は、途方もない作業で大変
「行旅死亡人」という言葉を初めて聞く方も多いでしょう。
「行旅死亡人」とは-
病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語。
「ある行旅死亡人の物語」より
つまり、「誰かわからないけど、亡くなった人」のことです。
行旅死亡人は、「官報」に記載されます。
「官報」とは、
官報は、法律、条約、府省令などの法令のほか、国の広報、公告類等を掲載する国の機関紙
【国立国会図書館サーチ リサーチ・ナビ「官報とは」】より一部抜粋
ざっくり言うと、 国が発行している情報新聞です。
著者の1人である武田さんは、官報の記事を見て、取材を始めました。
すでに起こった事件・事故の取材とは違い、身元不明人の取材を始めた当初は、どんな事実がわかるか、何もわからないままで終わるのか、全く検討がつきません。
事実が何もわからないまま、記事にもできずに、時間の無駄に終わってしまう可能性さえあります。
1つ1つが、とても地味な作業の連続です。
たった1つの官報の記事から事実を突き止めようと考える行動力は、さすが記者という感じです。
途方もない取材ばかりをし続ける作業は、とても苦労が多いのではないでしょうか。
仕事とは言え、私なら途中で投げ出してしまいそうです。
1つの官報の記事から、取材を始めてしまう記者の行動力に脱帽です。
官報に載せられた数行の文章だけで「記事にできそう」と感じる直感力は、記者ならでは、でしょうか。
経験がものを言うのかもしれません。
点を線に結びつける作業を繰り返す
官報の記事を元に取材してわかった事実(点)を元に取材を進めていくと、いくつかの点が線に結びつき始めます。
いくつかの細かい線どうしを、さらにつなげて、最後に1本の線にしていくような作業を繰り返します。
記者の取材は、警察の捜査と同じなのではないでしょうか。
警察は、犯人逮捕や事実を確かめる目的で個人情報を得ることができますが、記者は、そうは行きません。
個人情報をタテに取材拒否をされることもあるでしょうし、警察から「捜査に支障をきたすから」と門前払いになってしまうこともあります。
もしかしたら、警察より大変かもしれません。
やっぱり仕事とは言え、私なら途中で投げ出してしまいそうです。
警察の捜査とは違い、取材拒否をされるかもしれない記者。とても大変なお仕事です。
そして、このようなドキュメンタリー本は、電子書籍よりも紙の本が読みやすい気がします。
電子書籍より紙の本がおすすめ
「ある行旅死亡人の物語」は、いくつかの点を線に結びつける作業を繰り返す、完全ノンフィクションです。
ひたすら時系列にページが進みます。
進み方は、こんな感じです。
- 「A」「B」「C」という事実(点)がある
- 1つの事実を突き止めて、「B」と「C」が1つの線になる
- 「A」について調査をするが、何もわからず
- 新たな事実「D」が見つかる
- 1つの事実を突き止めて、「A」と「②」が1つの線になる
のような話の展開を繰り返します。
一気読みではなく、少しずつ読むと、⑤の時に、【「A」と「②」って何だっけ?】と疑問に思い、前のページを読み返したくなります。
この時に、電子書籍は大変です。
電子書籍という特性上、前のページをパラパラと見返すことができないので、見当をつけて前のページに戻るしかできません。
この見当が、うまく当たらないのです。
くわしくは、下をご覧ください。
電子書籍しか買わない方が、この本だけ紙の本にするべき、とまでは言いませんが、紙の本が読みやすいと感じました。
私は電子書籍で読みましたが、少し読みづらいかもしれません。
「ある行旅死亡人の物語」は、電子書籍よりも紙の本で読むのがおすすめ。
普段は紙の本を買う人が「たまには電子書籍で読んでみよう」と決意して、電子書籍を買わない方がいいかもしれません。
行旅死亡人の身元がわかることは、ほとんどない
身元不明の遺体が見つかると、その地域の警察署で捜査を行います。
「行旅死亡人」で捜査が終了すると、後に身元がわかるケースは、めったにないのだそうです。
当の担当刑事も、記者が身元を探し当てたと聞いて仰天していたそうだ。
「ある行旅死亡人の物語」より
著者のお2人が取材を重ねたから、たまたま身元が判明したのでしょう。
ほとんどの行旅死亡人は、身元不明のままなのです。
行旅死亡人とは、もともと「行旅中に死亡して、身寄りがない人」を指す言葉でした。
「行旅人」とは、
市町村の条例で定義づけられる移動中の人や漂泊中の人のこと
Wikipedia「行旅人」より一部抜粋
のことです。
行旅死亡人取扱法ができたのは明治32年。
この頃の身元不明者は、ごく限られた人だったのでしょう。
家族のあり方が変化し、身元不明の遺体が増えている、という話を聞きます。
つらい話ですが、家族・親戚・知人などと関わりを持って、自分が行旅死亡人にならないように心がけたいものです。
家族・親戚・知人とのつながりは、とても大切です。
行旅死亡人は高齢者だけの問題ではありません。
若い人が行旅死亡人になることもあるのです。
自分の周りの人は、普段から大切にしていきたいですね。
いつも周りの人たちを大切にしていきたいです。
【おまけ】テーマは違いますが、同じくドキュメンタリー本の「東京貧困女子」も乗せています。
文字のみなので、画面が白黒の端末で読むのがおすすめ